東京地裁(令和3年7月20日)“剛性高出力高速レイジング格子構造事件”は、「法184条の4第4項所定の『正当な理由』があるときとは、特段の事情のない限り、国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。以下同じ。)として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうものと解するのが相当である。これを本件について見るに、本件国際出願については、日本への国内移行手続の期限が、正しくはその優先日から30か月後の日である平成30年(2018年)1月30日であったにもかかわらず、本件一覧表には、当該優先日から31か月後の日である同年2月28日と記入されていたことから、原告は、本件国内書面提出期間内に本件国際特許出願につき明細書等翻訳文を提出することができなかったものと認められるところ、本件担当パラリーガル(サイト注:本件代理人事務所の補助者)は、本件一覧表の記載を含む本件メール案を作成した後、原告にこれを送信する前に、本件担当弁護士(サイト注:本件代理人事務所の弁護士)にその内容の確認を求めており、本件担当弁護士は、その内容を確認したものの、本件一覧表に記入された日本への国内移行手続の期限が誤っていることに気付かなかったものである。しかしながら、本件代理人事務所(サイト注:米国の弁護士事務所)が国際出願に係る文書の提出期限等を管理するために使用している本件文書管理システムは、国際出願ごとに国内移行手続の期限を管理しており、当該国際出願の優先日から30か月後の期限と31か月後の期限を表示したレポートを生成するものの、当該レポートでは国等が特定されておらず、前者の期限の対象となる国等と後者の期限の対象となる国等とを区別する仕様になっていなかったのであるから、本件担当パラリーガルとしては、本件一覧表を作成するに当たり、本件一覧表に記入する日本ほか6か国等について、前者の期限の対象となる国等と後者の期限の対象となる国等を調査し、両者を正確に区別する必要があったというべきであるが、本件全証拠によっても、本件担当パラリーガルが具体的にどのような調査を行い、どのように両者を区別したのか明らかではない。かえって、本件担当パラリーガルは、本件一覧表を作成するのに先立って、日本の特許事務所に対して国内移行手続に要する費用の見積りを求めており、これに併せて同手続の期間を問い合わせることは容易であったにもかかわらず、同事務所との間でそのようなやり取りをしたことはうかがわれない。また、本件担当弁護士は、日本ほか6か国等について、前者の期限の対象となる国等と後者の期限の対象となる国等とを区別して取り扱うように本件担当パラリーガルに指示しており、本件一覧表に記入された期限のうち、平成30年(2018年)1月30日については前者の期限に、同年2月28日については後者の期限に、それぞれ該当することを容易に認識し得たのであるから、本件文書管理システムが前記のとおり両者の期限の対象となる国等を区別する仕様になっていなかったことを踏まえれば、本件担当弁護士と しては、本件担当パラリーガルから本件メール案の内容の確認を求められた際に、本件メール案に記載された本件一覧表について、本件担当パラリーガルが前者の期限が対象となる国等と後者の期限が対象となる国等とを正確に区別して記入しているか確認する必要があったというべきであるが、本件全証拠によっても、本件担当弁護士が具体的にどのような確認を行ったのか明らかではなく、本件担当パラリーガルに対して前者の期限の対象となる国等と後者の期限の対象となる国等とを正確に区別するように注意喚起したり、 本件一覧表を作成するに当たってどのような調査を行ったのか確認したりした様子もうかがわれない。さらに、本件担当弁護士らは、本件メールを原告に送信した後も、本件国内書面提出期間が徒過するまでの間に、原告に対して本件一覧表の記載を含む電子メールを複数回にわたって送信しているが、その際にも、本件一覧表に国内移行手続の期限が正しく記入されているか確認していない。このような状況に照らせば、本件一覧表に日本への国内移行手続の期限が誤って記入されていたことにより本件国内書面提出期間を徒過したことについて、本件担当弁護士らがこれを回避するために相当な注意を尽くしていたとは認められない」、「法改正の状況(サイト注:未だ施行前であるが、令和3年の法改正によって正当な理由の有無にかかわらず故意でなければ救済されることになった)等を含め、原告は縷々主張するが、・・・・ いずれも採用することができない。以上によれば、原告が本件国内書面提出期間内に本件国際特許出願につき明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて、法184条の4第4項所定の『正当な理由』があったとは認められない」と述べている。 |