東京地裁(令和3年)“レーザ加工装置事件「原告は、乙6公報は、本件発明1の原出願時の技術常識に照らして当業者が実施可能であるように記載されていないから、引用例として適格性を欠くと主張する。原告が指摘するように、無効2005−80166号事件の審決・・・・においては、乙6公報の実施例・・・・について、そこに記載された実験条件から計算されるレーザの収束の程度(集光半角)では、ガラス内部の所望の集光点に達する以前に、ガラス表面で多光子吸収が発生するほどのエネルギー密度となってしまい、ガラスの内部にのみ多光子吸収による微小亀裂を作ることは不可能であるから、乙6公報記載の発明は完成しているとはいえないとして、乙6公報は進歩性を判断する際の引用例として考慮できないとされたものである。しかしながら、・・・・乙6公報には、レーザ照射等を用いて、破断開封用アンプル等のガラス物体の内部の破断領域に微小亀裂を発生させることにより、破断ないし分離のための適切な破断点を分割線に沿って形成するとの技術思想が開示され・・・・、微少亀裂を発生させるレーザーのパラメータ等についても、レーザパルス時間を1msより短くすること、集光点の直径を10μより小さくすること、約0〜100Hzの繰り返し周波数を備える単一レーザーパルス又は一連のレーザーパルスを利用することが望ましいことが開示されており・・・・、しかも、『これを実施するための適切なパラメーターを見つけだすことは進歩性を要求せず、これらは当業者によって、例えば適切な通常の実験に基づいて容易に決定できる・・・・との記載もある。このような乙6公報の記載事項からすれば、仮に、実施例として開示されていた実験条件が、ガラスの内部にのみ微少亀裂を作ることができないものであったとしても、乙6公報には本件発明1と対比可能な程度に具体的な技術思想が開示されているから、乙6公報に記載された発明は、特許法9条1項3号に規定する『刊行物に記載された発明』に該当するというべきである。したがって、原告の上記主張は採用することができない」と述べている。

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