大阪地裁(令和4年2月28日)“魚体内の血液の瞬間除去装置事件”は、「本件各発明の解決すべき課題、課題解決手段及び効果に照らすと、本件各発明は、どのような大きさの魚であっても、瞬時にして簡潔確実に血抜きができる魚の生き締めの装置及びその方法を内容とするものであり、@魚の尾部の血液弓門から動脈又は静脈を含む血管内に圧力を掛けた高圧液体を噴射して魚の血抜きをすること(以下『特徴的部分@』という。)、Aあらゆる大きさの魚に対応するための血液弓門の密着封止構造を実現すると共に、ノズル先端部の破損を抑制するため、ノズルの先端部分の形状をテーパ状にすること(以下「特徴的部分A」という。)を特徴とする魚の血抜き装置及びその方法であると認められる」、「被告は、少なくとも平成29年8月10日頃までは、魚の神経抜き及び血抜きにあたってはあえて少し血を残す方が良く、魚の熟成等の観点からは血の回りだけでなく神経絞めに意味があると考えており、このような考えに基づき、脳髄や神経を抜くことで血抜きをするという発想を持っていたことがうかがわれる。また、被告は、この頃、『明石浦漁港のやり方』すなわち背骨上側に沿う脊髄神経に針金を通し神経を破壊する方法に加えて水圧を使うことを提案していることに鑑みると、尾部を切断することやそれによって血液弓門を露出させ、血液弓門から水圧を掛けて血抜きをすることは、必ずしも想到していなかったものと推察される。他方、原告は、早く確実に作業することが可能なことや骨全体まで完全に血抜きをすることを重視し、神経抜きはすればよいがしなくてもよく、血を回さないための神経抜きであると考えていた。原告は、当時実施していた方法はエラに水圧を掛けて血抜きをするものであったが、この方法では鬱血を広げてしまうという欠点があるとしていたところ、足踏み式試作品を見て、水が噴出されるノズルの先端部分の形状をより細くすれば十分に加圧することが可能となり、『全て切った尾びれの付け根から処理でき』る、すなわち、尾部を切断して血液弓門を露出させ、そこに先端を細くしたノズルを刺して水圧を掛け、神経抜きと血抜きを行う方法を着想したことがうかがわれる。その後の原告と被告とのやり取りは、原告が着想した上記方法を念頭に、ノズルの形状や流量調節器具に関する具体的検討を進めたものと理解される。したがって、本件各発明の特徴的部分@は、被告が製作した足踏み式試作品に接したことを契機とするものの、長年の水産会社勤務、とりわけ魚の生き締めに関する実地での経験等を背景とした原告の着想及び具体化に基づくものといってよい。したがって、本件各発明の特徴的部分@の完成については、被告のみならず原告も創作的に寄与したものというべきである」、「本件各発明の特徴的部分Aに関する原告と被告とのやり取りは、以下のような経過をたどったものと理解される。すなわち、被告は、原告とのやり取りを開始した平成29年7月11日までには既にノズルの先端の形状がテーパ状である足踏み式試作品を試作していたが、同月12日には、ノズルの形状が針状のエアダスターにつき、十分に用途を果たすこと、エアガンでないと極細ノズルが付けられないこと、魚によっては極細ノズルは要らないかもしれないが、特に血管の方までやるなら極細ノズルは必要と考えることなどの意見を述べた。また、原告は、同年8月1日、被告に対し、足踏み式試作品について、先端部分をもっと細くすることができるかを尋ね、被告が簡単にできる旨を回答すると、それであれば神経まで潰せるし、逆から骨の血も抜ける、全て切った尾ヒレの付け根から処理できるとの考えを示した。さらに、同日、原告は、針状試作品について、これを用いれば簡単に後ろから処理できる、水圧で神経が出せるなら、スーパーでも使えるなどと感想を述べた。その後の同年9月の間のやり取りにおいても、原告と被告は、ノズルの形状については針状の極細ノズルとすることを念頭に検討を進めていたことがうかがわれる。もっとも、原告は、針状試作品では魚が暴れた際等にノズルが変形等してしまうなどの不具合があると結論付け、同年11月1日、被告に対し、ノズルの形状をテーパ状にすることを提案した。これに対し、被告は、当初、テーパ状とすると製造にあたって精密さが求められ、コストが掛かることなどを指摘し、消極的な態度を示したが、原告が製造業者からテーパ状のノズルの製作は比較的簡単である旨の回答を得たこともあって、ノズルの形状をテーパ状とすることも検討することとした。しかるに、原告は、その後、ノズルの形状をテーパ状とするだけでは十分ではなく、せめて先端の1cm程度を針状にして魚の骨の中で固定することが必要であるとし、当該針状の部位からそのままテーパ状の部位につながるノズルの形状を提案した。これに対し、被告は、スプレー式に噴出するテーパ状のノズルであっても、圧力の逃げ場がないように神経弓門や血液弓門に刺すなどすることができるのではな いか、との意見を述べたが、原告は、これに否定的な態度を示した。このような経緯を経て、本件各発明は、あらゆる大きさの魚に対応するための血液弓門の密着封止構造を実現すると共に、ノズル先端部の破損を抑制するため、ノズルの先端部分の形状をテーパ状にすること(特徴的部分A)をその特徴的部分の1つとするものとして完成するに至ったものといえる。このことに鑑みると、特徴的部分Aにつき、最終的には被告の考えに基づき発明として完成したものの、課題を解決するための着想及びその具体化の過程においては、被告のみならず原告も創作的に寄与したものというべきである」、「したがって、原告と被告は、共に本件各発明の特徴的部分@及びAの完成に創作的に寄与したものといえ、原告と被告は、本件各発明の共同発明者と認められる」と述べている。 |