知財高裁(令和4年3月29日)“情報記憶装置事件”は、「被控訴人らは、控訴人の本件請求は、控訴人が、原告電子部品(ICチップ)のメモリの書換えを技術的に困難にする本件書換制限措置という合理性及び必要性のない行為により、被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品を取り外して被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ、原告電子部品(ICチップ)のメモリを書き換える態様により原告製品をリサイクルしたリサイクル品の原告電子部品についての本件各特許権の消尽の成立を控訴人の意思により妨げ、そのような結果を利用したものであるという点において消尽の趣旨を潜脱し、また、リサイクル品が装着された場合にディスプレイ上に『?』が表示されるような設定と本件書換制限措置という妨害行為を組み合わせる方法で、純正品と同等のリサイクル品を競争上劣位におき、リサイクル事業者である被控訴人らの取引を不当に妨害しているから、公正な競争を阻害するものであり、競争者に対する取引妨害として、独占禁止法(独占禁止法19条、2条9項6号、一般指定14項)に抵触することを総合考慮すると、控訴人が、被控訴人らに対し、被告電子部品について本件各特許権に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を行使することは、権利の濫用に当たり許されない旨主張する」、「本件書換制限措置が講じられた原告電子部品が搭載された純正品の原告製品が装着された原告プリンタと使用済みの原告製品にトナーを再充填した再生品が装着された原告プリンタの機能を対比すると、再生品が装着された原告プリンタは、トナー残量表示に『?』と表示され、残量表示がされず、予告表示がされない点で純正品の原告製品が装着された原告プリンタと異なるが、再生品が装着された場合においても、トナー切れによる印刷停止の動作及び『トナーがなくなりました。』等のトナー切れ表示は純正品が装着された場合と異なるものではなく、印刷機能に支障をきたすものではないこと、再生品が装着された原告プリンタにおいても、トナー残量表示に『?』と表示されるとともに、『印刷できます。』との表示がされるので、再生品であるため残量表示がされないことも容易に認識し得るものであり、ユーザーが印刷機能に支障があるとの不安を抱くものとは認められないこと、ユーザーは、残量表示がされないことについて予備のトナーをあらかじめ用意しておくことで対応できるものであり、このようなユーザーの負担は大きいものとはいえないことを踏まえると、残量表示がされない再生品と純正品との上記機能上の差異及び価格差を考慮して、再生品を選択するユーザーも存在するものと認められる」、「一方、リサイクル事業者においては、残量表示がされないことについてユーザーが不安を抱くことを懸念するのであれば、再生品であるため残量表示がされないが、印刷はできることを表示することによって対応できること、電子部品の形状を工夫することで、本件各発明1ないし3の技術的範囲に属さない電子部品を製造し、これを原告電子部品と取り替えることで、本件各特許権侵害を回避し、残量表示をさせることは、技術的に可能であり、・・・・原告プリンタ用のトナーカートリッジの市場において、本件書換制限措置によるリサイクル事業者の不利益の程度は小さいものと認められる。次に、控訴人は、本件書換制限措置を行った理由について、原告電子部品に本件書換制限措置が講じられていない場合には、原告プリンタに自ら品質等をコントロールできない第三者の再生品のトナーの残量が表示され、残量表示の正確性を自らコントロールできないので、このような弊害を排除したいと考えて本件書換制限措置を講じたものである旨を主張し、経営戦略として、原告製プリンタに対応するトナーカートリッジのうち、ハイエンドのプリンタであるC830及びC840シリーズに対応する原告製品に搭載された原告電子部品を選択した旨を述べていること・・・・、その理由には、相応の合理性が認められること、上記のとおり、本件各特許権侵害を回避した電子部品の製造が技術的に可能であることを併せ考慮すると、控訴人が本件書換制限措置がされた原告電子部品を取り替えて使用済みの原告製品に搭載した被告電子部品について本件各特許権を行使することは、原告製品のリサイクル品をもっぱら市場から排除する目的によるものと認めることはできない。上記のとおり、本件書換制限措置によりリサイクル事業者が受ける競争制限効果の程度は小さいこと、控訴人が本件書換制限措置を講じたことには相応の合理性があり、控訴人による被告電子部品に対する本件各特許権の行使がもっぱら原告製品のリサイクル品を市場から排除する目的によるものとは認められないことからすると、控訴人が本件書換制限措置という合理性及び必要性のない行為により、被控訴人らが原告製品に搭載された原告電子部品を取り外し、被告電子部品に取り替えることを余儀なくさせ、上記消尽の成立を妨げたものと認めることはできない。以上の認定事実及びその他本件に現れた諸事情を総合考慮すれば控訴人が、被控訴人らに対し、被告電子部品について本件各特許権に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を行使することは、競争者に対する取引妨害として、独占禁止法(独占禁止法19条、2条9項6号、一般指定14項)に抵触するものということはできないし、また、特許法の目的である『産業の発達』を阻害し又は特許制度の趣旨を逸脱するものであるということはできないから、権利の濫用に当たるものと認めることはできない。したがって、被控訴人らの前記主張は採用することができない」と述べている。 |