知財高裁(令和4年)“吹矢の矢事件一般に『楕円形』とは『楕円状をなした形』をいい、幾何学上の楕円の形状がそれに含まれることはもとより、同形状とは異なるがそれに近い形についても用いられる語であると解される。もっとも、幾何学上の楕円の形状とは異なるがそれに近い形として、どのような形が『楕円形』に含まれるか『楕円形』の意味の外延は、上記の辞書的な意味からは明確とはいえない『楕円形』の語は『卵形』を含むものとして用いられることもあるものの、他方で、前記・・・・の『楕円形』の意味において『卵形』と同義である旨の説明はもちろん例示としても『卵形』という説明がみられないことや、・・・・『卵形』の意味においても、限定なしで『楕円形』と同義であることは何ら示されず『鶏卵に似た『鶏卵のような』といった限定を付して『楕円形』という語が用いられたり『楕円の一方が少し細くなっている形』との説明がされていることも踏まえると『楕円形』は本来的な意味として『卵形』を含むものではないとみられるところである「以上によると『楕円形』の語は、幾何学上の楕円の形状及びそれに近い形をいうものであるが、当該楕円の両端(当該楕円とその長軸が交わる2点をいう)付近の曲線を比較した場合に、その一方の曲率が他方の曲率より小さい形状『卵形』など。当事者の主張における『長手方向の端の一方が他方よりも緩い曲率の形状。以下『曲率に差のある形状』という)を含むものとして『楕円形』の語が用いられているか否かは、明細書(図面を含む)における当該『楕円形』の語が用いられている文脈等を踏まえて判断する必要があるというべきである「本件明細書には、先端部の形状について『楕円形』としてどのような範囲内のものであればピン抜けの課題が適切に解決されるかの判断の資料となり得るデータ等は、何ら記載されていない「本件明細書には、先端部の形状について『楕円形』としてどのような範囲内のものであれば重心の課題が適切に解決されるかの判断の資料となり得るデータ等は、何ら記載されていない「本件発明の実施例は、・・・・先端部の長手方向の断面は、・・・・『球形』の長手方向の断面である円を左右(矢の進行方向からすると前後)に二つに分割してその間に長方形を挟み込んだような形(換言すると『円』を左右に引き伸ばしたような形)であって『小判型』や『俵型の断面』などというべきものであり、幾何学上の楕円の形状とは異なるものの、長手方向の両端の曲率を同じくするものである。上記の形については、本件明細書に実験結果が記載されており、また、・・・・ピン抜けの課題の解決や重心の課題の解決に支障を生じ得るといった事情も認め難いものといえる前記・・・・の点を踏まえると、構成要件B及びDの『楕円形』は、幾何学上の楕円の形状や、本件発明の実施例の形のような、楕円に近い形状であって長手方向の両端の曲率を同じくする形状は含むものと解される一方で、曲率に差のある形状は含まないものと解するのが相当である。なお、これと異なる技術常識を認めるべき証拠もない「被告製品のピンの先端部は『長手方向断面が、前部が曲率の緩い曲線形状、後部が略円錐形となるように円弧を描き、後部の円柱部との接合面が上下に角を有し、前記後部の角と角とを直線で結んだ形状である先端部(構成要件b)であり、曲率に差のある形状の一端を更に一定の範囲で切断した形状というべきものであるから、構成要件B及びDの『楕円形』には含まれない。したがって、被告製品が、文言上、本件発明の技術的範囲に属するとは認められない「被控訴人は、本件で問題になっているのは、一般的に楕円形といえばどのような形を最初に思い浮かべるかではなく、卵形や涙滴型のような、長手方向の端の一方が他方よりも緩い曲率の形状を『楕円形』と表現するのか否かであると主張するが、被告製品の先端部の形状が本件発明の構成要件B及びDの『楕円形』に含まれるかという判断に先立って、まず、本件発明の構成要件の解釈として構成要件B及びDの『楕円形』の意味が問題となるのであるから、被控訴人の上記主張は、その前提を誤るものといえ、前記・・・・の判断を左右するものではないと述べている。

特許法の世界|判例集