知財高裁(令和4年3月7日)“鎮痛剤事件”は、「本件発明2は、公知の物質である本件化合物2について鎮痛剤としての医薬用途を見出したとするいわゆる医薬用途発明であるところ、訂正事項2−2に係る本件訂正は、『請求項1記載の鎮痛剤』(サイト注:痛みの処置における鎮痛剤)とあるのを『神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤』に訂正するというものであり、鎮痛剤としての用途を具体的に特定することを求めるものである。そして、『痛みの処置における鎮痛剤』が医薬用途発明たり得るためには、当該鎮痛剤が当該痛みの処置において有効であることが当然に求められるのであるから、訂正事項2−2に係る本件訂正が新規事項の追加に当たらないというためには、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤として『効果を奏すること』が、当業者によって、本件出願日当時の技術常識も考慮して、本件明細書(本件訂正前の特許請求の範囲を含む。以下同じ。)又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項として存在しなければならないことになる」、「本件明細書及び図面には、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置において効果を奏する旨の記載がないから、本件明細書及び図面には、その旨の明示の記載がないと認めるのが相当である」、「原告は、本件明細書には本件化合物2を神経障害及び線維筋痛症による痛みの処置に用いる旨の記載があるから、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置に用いられることはこの記載から自明であると主張する。原告の上記主張は、@神経障害性疼痛や線維筋痛症の主症状として痛覚過敏又は接触異痛の痛みが生じること、A神経障害性疼痛は、痛覚過敏や接触異痛の直接の原因となる神経の機能異常による疼痛であると定義されること、B線維筋痛症による痛みは、痛覚過敏を伴う疼痛であると定義されることが本件出願日当時の技術常識であったことを根拠とするものである。しかしながら、上記@及びBについては、神経障害性疼痛や線維筋痛症の主症状が痛覚過敏又は接触異痛の痛みであるとしても、また、線維筋痛症による痛みが痛覚過敏を伴う疼痛であると定義されていたとしても、そのことから直ちに、本件化合物2を神経障害及び線維筋痛症による痛みの処置に用いる旨の本件明細書の一般的な記載をもって、これが、本件化合物2が神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置において効果を奏することを意味すると解することはできない。上記Aについては、そのような技術常識が存在したと認められない・・・・。したがって、原告の上記主張を採用することはできない」、「訂正事項2−2に係る本件訂正が願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるということはできない。したがって、訂正事項2−2に係る本件訂正は、特許法134条の2第9項において準用する同法126条5項に違反し、許されない」と述べている。 |