大阪地裁(昭和2年4日)“ポリエステル事件特許発明の利用という概念は・・・・特許法2条に由来するものであって、同条によると、特許発明が先願の特許発明を利用するものであるときは、業としてその特許発明を実施することができないとされている。いうまでもなく右法条は、特許発明相互の関係を規定したものであって、ある発明がなんらかの点において新規性ありとして特許された場合でも、それが先願特許発明を利用する関係にあるときは、先願特許権者の許諾なくして自己の特許発明を実施することができないとするものであるが、その趣旨とするところは、右両発明の間に、後願特許発明を実施しようとすればかならず同時に先願特許発明を実施せざるをえないという関係、つまり先願特許発明を実施することなしに後願特許発明を実施することができないという関係が存在するところから、後願特許発明を業として実施するには先願特許権者の許諾を得なければならないとしたものであると解せられるのである。そうだとすると、そこにいわゆる特許発明の利用なる概念は、先願特許発明を実施することなしに後願特許発明を実施することができないような関係を意味するものといわなければならない」、ところで、ある特許発明と後行発明との間に右のごとき関係が生ずるのは、後行発明が特許された場合のみに限られるわけではなく、後行発明が特許されていない場合においても同様の関係が成立しうることはいうまでもないところであって、特許法2条はそのうち後行発明が特許されている場合についてのみ規定しているにすぎない。つまり、特許発明の利用関係は、後行発明が特許されていると否とにかかわらず、特許発明を実施することなしにその後行発明を実施することができないという関係が成立する場合に認められるのである。ところが、特許権者の許諾なしにその特許発明を実施することはすなわち、その特許を侵害することにほかならないのであるから、この観点からすれば、特許発明の利用関係は特許権侵害の一態様にすぎないということになり、本件において甲特許発明の利用関係が問題となりうるのも、その意味においてであるにほかならないといわねばならないのである。このように考えてくると、本件イ号・・・・方法が甲特許発明を利用することによってこれを侵害するものかどうかは、甲特許発明を実施することなしにイ号・・・・方法を実施することができないという関係が成立するかどうか・・・・によって決せられるものといわなければならない」と述べている。

特許法の世界|判例集