最高裁(昭和1年5)“旧特許法事件行政処分に瑕疵がある場合においても、その瑕疵が当該処分の結果に影響を及ぼさないときには、当該処分の取消原因とならないものと解すべきであるから、行政処分の取消訴訟において、当該処分に一般的にみて行政処分の結果に影響を及ぼすような性質を有する手続上の瑕疵が認められる場合でも、その瑕疵が当該処分の結果に影響を及ぼさないことが明らかであると認められる特別の事情があるときは、裁判所は、右瑕疵は当該処分の取消原因とならないものと判断しなければならないこととなる。そして、この理は、審決取消訴訟において審決に審判手続上の瑕疵があると認められる場合においても、原則として妥当するものである。しかしながら、審決取消訴訟においては、審判手続において審理判断されなかった公知事実を主張することは許されず、したがって、裁判所の審理判断もこれに及ばないこととなるのであるから(最高裁昭和・・・1年3月0日大法廷判決参照。・・・、審判手続上の瑕疵が審決に影響を及ぼすかどうかの判断が、審判手続において審理判断されず、したがって審決取消訴訟において審理判断することのできない公知事実にかかわるものである場合には、裁判所は、当該瑕疵が具体的に審決に影響を及ぼすかどうかについての判断をすることができず、当該瑕疵が一般的に審決に影響を及ぼすべき性質を有するものであるかどうかにより、審決取消の原因となる瑕疵かどうかを決しなければならない筋合である。本件についてこれをみるに、原審が確定した事実によれば、被上告人らは、本件特許発明は公知技術から容易に推考することができるもので旧特許法(大正0年法律第6号)7条1項一号に該当すること等を理由として、本件特許の無効審判の請求をしていたものであるところ、本件無効審判においては、訂正審判の審決により変更されたのちの審判の対象についてあらためて被上告人らに対し無効事由の主張立証をする機会を与える必要があったのに、これを怠った手続上の瑕疵があり、しかも、この瑕疵は一般的に審決に影響を及ぼす性質を有する瑕疵というべきものであることは、前述のとおりである。ところで、右審判手続において、被上告人らが無効事由の主張立証の機会を与えられていたとすればいかなる主張立証がされ、しかも、それが具体的に審決にいかなる影響を及ぼしたかについて、本件審決取消訴訟においてこれを判断することは、結局、審判手続において審理判断されていない公知事実について審決取消訴訟においてこれを審理判断することに帰着するものであり、これが許されないものであることは前述したとおりである。したがって、本件無効審判手続における前記瑕疵は、それが一般的に審決に影響を及ぼすような性質のものと認められる以上、被上告人らが右審判手続において主張立証の機会を与えられたならばいかなる主張立証をすることができ、それが審決の判断を動かすに足る有効適切なものかどうかを問うまでもなく、本件審決の取消原因になるものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、右と異なる見解に立って原判決を非難するものであって、採用することができない」と述べている。

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