秋田地裁(昭和8年3)“魚類はたはたのくん製方法事件本件特許権がはたはたの燻製という物の生産方法について特許がされたものであることは当事者間に争いがない。しかしながら、本件特許発明の目的物であるはたはたの燻製が本件特許の出願前に日本国内において公然知られた物でない(新規物)とは認めることができない。すなわち、本件の場合右の『公然知られた(新規性)とは、食品(殊に魚類)の燻製技術の分野において通常の知識を有する者がその物を生産する手がかりを得られる程度に知られていたことを要するが、それは一般的にその物を生産し得る知識が知られていれば足り、製品として市場価値を有する程度に佳良な物を生産し得る知識まで知られていたことは要しないと解すべきであるが、・・・・本件特許出願の日・・・・より以前・・・・に開催された第5回日本海水産試験場利用担当者会議(日本海沿岸の各県の水産試験場等の水産物加工技術者によって組織され、水産物加工業者も出席した)において、山形水産試験場の孫谷英一技師が『はたはたの調味燻製品』というテーマで研究発表を行い、製品的価値については検討を要するとしながらも、風味・肉質・外観にまで論及して報告をし、そのころ右の研究報告の結果が『水産物の利用に関する共同研究第八集』として刊行されたこと、これによりはたはたの燻製は、水産加工の分野において、商品価値を有する程に佳良な品質の物を生産し得るか否かはともかく、その物を生産するための手がかりを得られる程度に知られていたものであることが認められるのであって、原告主張のように公然知られた物でない(新規物)とは認めることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない」、「そうすると、特許法104条による生産方法の推定は、その前提要件を欠くために適用することができず、他に被告物件が本件特許発明によって生産された物であることを認めるに足りる証拠はない」と述べている。

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