最高裁(昭和59年3月13日)“非水溶性モノアゾ染料の製法事件”は、「特許法157条2項4号が審決をする場合には審決書に理由を記載すべき旨定めている趣旨は、審判官の判断の慎重、合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること、当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与えること及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすることにあるというべきであり、したがって、審決書に記載すべき理由としては、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の技術上の常識又は技術水準とされる事実などこれらの者にとって顕著な事実について判断を示す場合であるなど特段の事由がない限り、・・・・審判における最終的な判断として、その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを要するものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、本件第一発明についての特許が特許法29条2項の規定に違反し無効であるとする理由としては、『本件特許の上記第一番目の発明において、その余の成分を使用する場合については、該成分はいずれも上記成分と同様に使用できる相互置換容易の化合物であり、さらに生成染料について、本件特許明細書には、該染料が、ある特定の成分を使用した場合のみ著しく価値あるものとすべき十分の根拠を示していないことから判断して、夫夫の生成染料は上記染料と同程度の価値のものとしての認識を出ていないものと解するを相当とする。』との記載があるにすぎないというのであり、これを原判示の本件審決書のその余の記載に照らして考察しても、右理由の記載は、本件第一発明においてジアゾ成分のXとしてシアン以外の成分、カップリング成分のYとしてアシルアミノ以外の成分をそれぞれ用いた場合については、シアン及びアシルアミノが用いられているとする引用例の発明とは成分の置換が容易であり、また、生成染料も同程度の価値のものであるということをいわば結論的に示すにとどまり、そのように判断した根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示するものとはいえないから、特段の事由が認められない本件においては、本件第一発明のような染料の技術分野における発明についての特許が右規定に違反し無効であるとする判断を示すについて、右程度の記載をもって法の要求する審決理由を記載したものと解することはできず、したがって、本件審決中本件第一発明に関する部分は違法であるといわなければならない」と述べている。 |