大阪地裁(昭和9年4)“架構材の取付金具事件通常実施権は債権であり、排他性を有しないものの、権利の不可侵性という一般論からいえば、債権侵害の不法行為を肯定することも可能である。しかしながら右侵害のすべてが不法行為を構成するのではなく、不法行為の成否は、当該権利の性質、侵害行為の態様などを総合して決められなければならない。そこで本件における非独占的通常実施権についてこの点をみることとする。実用新案法9条2項(サイト注:特許法8条2項に相当)には『通常実施権者は、・・・・設定行為で定めた範囲内において業としてその登録実用新案の実施をする権利を有する』と規定しており、右の規定よりすれば、通常実施権の許諾者は、通常実施権者に対し、当該実用新案を業として実施することを容認する義務、すなわち実施権者に対し右実施による差止・損害賠償請求権を行使しないという不作為義務を負うに止まりそれ以上に許諾者は実施権者に対し、他の無承諾実施者の行為を排除し通常実施権者の損害を避止する義務までを当然に負うものではない。また、当然のことながら、通常実施権を設定した実施許諾者は、更に複数の者に実施させる権利を有すると共に無承諾で当該考案を実施している第三者を放置する自由をも有しており、したがって非独占的な実施権者は常に同種権利者による競合実施の結果生ずることのある売上げ減などの損害を受けうる立場にあるといわなければならない。そして、実用新案の侵害者が侵害行為により受けた利益をもって権利者の損害と推定する旨の実用新案法9条(サイト注:特許法10条に相当)1項(サイト注:現2項)及び実用新案の実施に対し通常受けるべき金銭すなわち実施料相当額を権利者の損害額として請求できる旨の同条2項(サイト注:現3項)には、権利者として実用新案権者と専用実施権者のみが記載されている。右のような非独占的通常実施権の性質及び侵害者の利益による損害の推定規定・実施料相当の損害に関する規定中の権利者として通常実施権者が記載されていないことなどに鑑みると、第三者が具体的に実施権者の実施行為を妨害する挙に出たような場合は格別、実用新案権者の承諾なしに当該考案を実施しているだけでは、いまだ非独占的通常実施権者に対する権利侵害があったということはできず、結局右侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことに帰する」と述べている。

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