東京地裁(昭和0年4)“物体搬送装置事件特許を受けようとして出願する者は、その発明について可能な限り最大限の保護を求めていると考えるのが自然かつ合理的であるから、出願人が意識してその発明の技術的範囲を限定しているというためには、明細書その他出願書類に限定している旨が明らかにされていることを要するというべきである。しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明の項において、特許請求の範囲に記載された『回転』の意義を限定するような記載を見い出すことはできない。被告は、本件明細書の発明の詳細な説明の項に記載された5つの実施例がいずれもA態様のものであってB態様のものでないことを意識的に除外したことの根拠の1つにするが、一般に実施例は発明思想を実際上どのように具体化するかを示すための例示的な説明にすぎないものであるから、実施例にB態様のものがないからといって、B態様のものを意識的に除外しているといえないことはいうまでもないところである。かえって、本件明細書の発明の詳細な説明の項に『特定の実施例を参照して物体を動かす方法及び装置について記載したが、搬送装置を変更し得ることが当業者に明らかであろう。当業者に明らかなこのような変更は凡て本発明の範囲に属すると考える・・・と記載していることからするならば、出願人においてA態様以外の作動態様のものも本件発明の技術的範囲に含まれると考えていることが推認されるのであって、出願人が本件発明の技術的範囲をA態様のもののみに意識的に限定しているとは到底いえない。また、他に本件発明にいう『回転』の意義を限定する趣旨が記載された出願書類のあることを認めるに足りる証拠は見当たらない」と述べている。

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