最高裁(昭和61年10月3日)“ウォーキングビーム式加熱炉事件”は、「79条にいう発明の実施である『事業の準備』とは、特許出願に係る発明の内容を知らないでこれと同じ内容の発明をした者又はこの者から知得した者が、その発明につき、いまだ事業の実施の段階には至らないものの、即時実施の意図を有しており、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において表明されていることを意味すると解するのが相当である」、「被上告会社は、富士製鉄からの広畑製鉄所用加熱炉の引合いに応じ、当初プッシャー式加熱炉の見積設計を行い、次いで電動式のウォーキングビーム式加熱炉の見積設計を行ってA製品に係る発明を完成させたうえ、本件特許発明の優先権主張日前である昭和41年8月31日頃、富士製鉄に対しA製品に関する前記見積仕様書及び設計図を提出し、富士製鉄から受注することができなかったため最終製作図は作成していなかったものの、同社から受注すれば広畑製鉄所との間で細部の打合せを行って最終製作図を作成し、それに従って加熱炉を築造する予定であって、受注に備えて各装置部分について下請会社に見積りを依頼したりしていたのであり、その後も毎年ウォーキングビーム式加熱炉の入札に参加したというのである。そして、ウォーキングビーム式加熱炉は、引合いから受注、納品に至るまで相当の期間を要し、しかも大量生産品ではなく個別的注文を得て初めて生産にとりかかるものであって、予め部品等を買い備えるものではないことも、原審の適法に確定するところであり、かかる工業用加熱炉の特殊事情も併せ考えると、被上告会社はA製品に係る発明につき即時実施の意図を有していたというべきであり、かつ、その即時実施の意図は、富士製鉄に対する前記見積仕様書等の提出という行為により客観的に認識されうる態様、程度において表明されていたものというべきである。したがって、被上告会社は、本件特許発明の優先権主張日において、A製品に係る発明につき現に実施の事業の準備をしていたものと解するのが相当である」と述べている。 |