東京高裁(昭和61年12月25日)“紙幣事件”は、「産業上利用することができる考案であっても、それが公の秩序を害するおそれがある場合には、実用新案登録を受けることができないことは、実用新案法第4条の規定するところであるが、右に公の秩序を害するおそれがある考案とは、考案の本来の目的が公の秩序を害するおそれがあり、したがってその目的にそう実施が必然的に公の秩序を害するおそれのある考案をいうものと解すべきところ、・・・・本願考案の目的及び考案の内容に徴すると、本願考案が叙上の観点から公の秩序を害するものといい得ないことは明らかである。被告は、本願考案に係る紙幣は、本願考案の明細書及び図面に記載された技術によっては、現実的意味をもって実施できる可能性は事実上ないのであるから、常識をもって判断すれば、現在の社会生活、経済活動の基礎をなす通貨として、国がそのような紙幣を採用することの可能性は考えられず、また、一般私人がこのような紙幣の考案を適法に実施することができないこともいうまでもないところ、このような事情のもとにある本願考案にもし残された意味があるとすれば、それは、一般私人が行えば違法となる真貨である紙幣にパンチ孔を穿設するという行為、すなわち、犯罪行為をそそのかすこと以外に有り得ない旨主張するが、実施不能であることと公序違反となることとは直接結びつくものでないばかりか、・・・・本願考案が国によって実施される可能性が将来において全くないとはいい難いし、仮に、本願考案がヒントになって、パンチ孔の穿設していない紙幣に孔を穿つ者がいるとしても、そのことと本願考案が公序に反するか否かとは全く別問題であって、被告の右主張は、採用するに由ない」と述べている。 |