東京高裁(昭和2年5月7)“セルフロックねじ部材事件特許出願後審査あるいは審判の手続中に特許を受ける権利の特定承継があった場合に、右承継は手続に影響を及ぼさず、旧権利者は右承継によって手続を追行する権能を失わないとしてそのまま手続を追行させ、査定あるいは審判の効力を権利の承継人に及ぼさせることとするか、あるいは、特許を受ける権利の特定承継に伴い該承継人を手続に関与させ、出願人の地位を引き継がせて、これに対して査定、審判をすることとするか、及び後者の立場を採る場合、どのような方法によって権利の承継人に手続を引き継がせるかは、民事訴訟における当事者恒定主義又は訴訟承継主義の採否と同じく、立法政策によって決定されるべき問題であるところ、特許法は、第1条に『特許庁長官又は審判長は、特許庁に事件が係属している場合において、特許権その他特許に関する権利の移転があったときは、特許権その他特許に関する権利の承継人に対し、その事件に関する手続を続行することができる』と規定し、基本的に後者の立場を採用し(右規定は、成立した特許権をめぐる事件の手続中に権利が承継された場合をも対象とするが、その規定部分はもとより本件に係りがない。)、特許庁長官又は審判長が権利の承継人に手続を引き継がせるかどうかを決定し得るものと定めた。このように特許庁長官又は審判長がその裁量に基づき権利の承継人に手続を引き継がせるかどうかを決定し得るものとしたのは、例えば、審査又は審判が終結に熟していて権利の承継人を手続に関与させる具体的必要に乏しいとか、権利の特定承継の届出についての方式審査が未了で旧権利者にそのまま手続を追行させるのが適当であるなど当該事件に対する審査又は審判の状況に応じて事宜に適すると認めるときは旧権利者を出願人の地位にある者として手続を追行させることができ、他方において、特許庁長官又は審判長が相当と認めるときは権利の承継人に手続を引き継がせることもできるとしたものであり(権利の承継人に手続を引き継がせるときは、特許法施行規則第7条により当事者にその旨を通知しなければならないと定められている。)、このことは比較的広般な範囲の職権主義を採用している特許法の建前にも適合するものと考えられる。そして、特許庁長官又は審判長が旧権利者にそのまま手続を追行させることとした場合、旧権利者は手続追行の権能を保有するとともに、旧権利者に対する査定又は審決など特許を受ける権利についてなされた処分の効力は権利の承継人にも及ぶのであり、特許法第0条の規定は右の趣旨を含むものと解するのが相当である」、「これを本件についてみると、特許を受ける権利は、昭和7年3月6日になされた特許査定の謄本を特許出願人に送達する前である同年4月7日原告に承継されたものであるが、特許庁長官は権利の承継人である原告に対し、手続を続行することなく、同年6月5日従前の権利者である訴外Bの代理人Cに本件特許査定謄本を送達したものであるから、右送達は、その裁量により前記特許を受ける権利の承継後における従前の権利者に対する手続の続行としてなされたものというべきである。したがって、右送達には何ら手続上の瑕疵はなく、本件特許査定は右送達により効力が生じ、その効力は承継人である原告に及ぶことが明らかである」と述べている。

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