東京高裁(昭和62年9月7日)“ポリプロピレン組成物事件”は、「本件審判請求書が原告宇部興産及び『トヨタ自動車工業株式会社』を共同請求人と記載した拒絶査定不服の審判の請求書であり、本件却下決定が指摘する『請求人の名称(サイト注:トヨタ自動車株式会社)が正確に記載されてなく、また、押印もなかった』との瑕疵(審判請求書の方式違反)は、原告宇部興産についてのものではなく、『トヨタ自動車工業株式会社』にのみ関するものであった」、「被告(サイト注:特許庁長官)は、特許庁審判長は、特許法133条1項に従い、昭和61年5月29日付で、原告(請求人)宇部興産を名宛人として、右瑕疵の補正を命じた手続補正指令書を発送した旨主張する。しかし、一般に2人以上が共同して手続をした場合に手続上の瑕疵の補正を命じるには、瑕疵ある手続をした当の本人又は本人から右瑕疵を補正する権限を授与された者に対してこれをしなければならず、これ以外の者に対し補正を命じても、本人に対し何らの効力も生じないことはいうまでもない。本件において、『トヨタ自動車工業株式会社』と表示されている者に関する右瑕疵は、この者のした拒絶査定不服の審判の請求手続の瑕疵にほかならず、その瑕疵の補正は当該手続を補完する手続として右審判請求手続の一環とみるべきところ、拒絶査定不服の審判の請求手続につき、共同請求人の各人が全員を代表する権限を当然には有しないことは特許法14条本文の規定するところである。そして、本件審判請求手続につき同条ただし書に基づく代表者選定届がされていないことは当事者間に争いがなく、また、原告(請求人)宇部興産が『トヨタ自動車工業株式会社』として表示されている者の審判請求手続につき、この者を代理する権限を附与された事実は被告の主張立証しないところであるから、本件審判請求手続に関し、原告(請求人)宇部興産が『トヨタ自動車工業株式会社』にのみ関する本件審判請求書上の前示瑕疵を補正する権限、また、右瑕疵を補正すべきことを命じた手続補正指令書を自己の名において『トヨタ自動車工業株式会社』に代って受領する権限を有していたと認めることはできない。したがって、右瑕疵を補正すべきことを命じた被告主張の手続補正指令書が、仮に被告の主張するとおり原告(請求人)宇部興産に宛てて発送され、同原告に到達したとしても、これによっては、本件審判請求書の前示瑕疵につき特許法133条1項に定める補正指令が本来これを命ずべき者に対し適法有効にされたということはできず、これが適法有効にされたことを前提とし、審判長の指定した期間内に右補正指令に応じた補正がされなかったことを理由に本件審判請求書を却下した本件却下決定は、同条2項に違反した違法な却下決定といわなければならない」と述べている。 |