■■ 解説(2項) ■■(»全体表示)
(1)解釈
(1.1)「範囲」
次の事項である。 @地域(日本国内のどの地域においてかであり、制限をしない場合は「日本全国」と定めればよい) A期間(特許権の存続期間内のいつからいつまでかであり、制限をしない場合は「本特許権の存続期間中」と定めればよい) B内容(どの特許発明についてどのような実施ができるのかであり、制限をしない場合は「全部」と定めればよい)
【補足1】専用実施権の範囲は、登録申請書に記載しなければならない(»特許登録令43条1項・2項)。
【補足2】専用実施権の範囲以外の定めについては、それらに違反しても契約違反(債務不履行)となるにとどまり、特許権の侵害にはならない(»判例1、判例2)。なお、専用実施権者は、特に定めがなくても、実施(に向けて合理的な努力を尽くす)義務を負う(»判例)。
(1.2)「特許発明の実施をする権利を専有する」
特許発明の実施の独占権を有することである。
【補足】特許権と同様の独占権であるので、特許権の侵害と同様に専用実施権の侵害が成り立つ。専用実施権を侵害された専用実施権者は、必要に応じて次の権利を行使できる。なお、専用実施権を共有している場合であっても、各共有者は単独でそれらの権利を行使できる。 @差止請求権(»第100条) A損害賠償請求権(»民法709条、第102条) B不当利得返還請求権(»民法703条) C信用回復措置請求権(»第106条)
(2)その他
(2.1)実施料
専用実施権を設定する際には、その対価(例えば、金銭、無償)についても定めることになる。対価が金銭(いわゆる実施料)の場合は、特許発明の市場価値は実際に実施して初めて明らかになることや無効理由が発見されて特許が無効になる可能性もあることに鑑みると、定額払いよりも、次のような実施料率による出来高払い(いわゆるランニングロイヤリティ)が適している。 @一定の期間ごとに単位数量当たり何円を支払う(従量方式) A一定の期間ごとに売上額や利益額の何%を支払う(従率方式)
【補足1】ランニングロイヤリティ単独ではなく、これに契約一時金(いわゆるイニシャルペイメント)や最低実施料(いわゆるミニマムロイヤリティ)を組み合わせる場合もある。特に専用実施権の設定の場合は、最低実施料の支払い(「最低実施料+ランニングロイヤリティ」や「最低実施料≦ランニングロイヤリティ」)を定めることは欠かせない(実施料が所定の金額に達しなければ専用実施権の設定を解除できる旨や他の者に通常実施権を許諾できる旨を定めてもよい)。
【補足2】専用実施権者が実施した発明が特許発明ではなかった場合(例えば、特許発明の技術的範囲への属否の判断を誤った場合、特許が無効になった場合、補正や訂正によって特許請求の範囲から除外された場合)の支払済みの実施料は、返還しない旨の定め(不返還条項)があれば、不当利得とはならないので、返還する必要はない(»判例)。ただし、特許権者が信義則に反する行動をとった場合(例えば、その事実を知っていたのに専用実施権者に通知しなかった場合、専用実施権者からの問合せに応じなかった場合)は、不返還条項は適用されない(»判例)。