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(1)趣旨

(1.条第3項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した特許公報(以下「特許掲載公報」という)の発行若しくは出願公開又は実用新案法第条第3項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した実用新案公報(以下「実用新案掲載公報」という)の発行がされたもの

 先願は特許公報や実用新案公報に掲載されるまでは秘密の状態にあるので、先願に記載された発明や考案を引用例として拒絶理由を通知できないからである

 補足先願に同一の発明や考案が記載されていることが特許公報や実用新案公報への掲載前に審査において発見された場合は、特許公報や実用新案公報への掲載を待ってから、本条による拒絶理由が通知されることになる。なお、特許公報や実用新案公報への掲載を待たずに(本条による拒絶理由は未だ生じていないので)特許査定をすることもできるが、その後に特許公報や実用新案公報に掲載されれば、特許は本条による無効理由を有することになる»判例

(1.願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(第6条の2第2項の外国語書面出願にあっては、同条第1項の外国語書面)に記載された発明又は考案

 新規事項を追加する補正や原文新規事項を追加する翻訳によって記載された発明や考案と同一である場合にまで特許を受けることができないことになると、先願主義に反することになるからである

(1.(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く

 先願に記載された発明や考案が自己のものである場合、すなわち、先願の二番煎じの発明ではない場合にまで特許を受けることができないことになると、苛酷だからである。

(2)その他

(2.)先願であるか否かの判断方法

 他人の特許出願や実用新案登録出願が自己の特許出願の先願であるか否かの判断は、現実の出願日同士を比較すれば足りる場合のほか、次のように比較する基準日が現実の出願日ではない場合もある。
 @自己の特許出願が優先権の主張を伴うものである場合にあっては、優先権が生じている発明については、優先日が基準日となる»1条2項、パリ条約条B
 A自己の特許出願が分割出願、変更出願、実用新案登録に基づく特許出願である場合にあっては、それらが適法なものであれば、みなし出願日が基準日となる»4条2項、6条6項−第4条2項6条の2第2項
 B他人の特許出願や実用新案登録出願が優先権の主張を伴うものである場合にあっては、優先権が生じている発明については、優先日が基準日となる»1条2項、パリ条約4条B

 補足1他の特許出願や実用新案登録出願が分割出願、変更出願、実用新案登録に基づく特許出願である場合にあっては、それらが適法なものであるか否かに関わらず、みなし出願日ではなく、現実の出願日が基準日となる»4条2項ただし書、6条6項−第4条2項ただし書、6条の2第2項ただし書、実用新案法0条3項ただし書、1条1項−特許法4条2項ただし書

 補足2同日の場合は、本条の適用はなく、重複特許の禁止»9条2項・4項)が適用される

(2.先願の拡大された後願排除効への抵触の有無判断方法

 先願の拡大された後願排除効への抵触の有無の判断、すなわち、自己の特許出願後に特許公報や実用新案公報に掲載された他人の先願に記載された発明や考案と同一であるか否かの判断は、以下のステップによって行われる。
 (A)特許を受けようとする発明の特定
 
新規性の有無の判断の場合と同様である
 (B)自己の特許出願後に特許公報や実用新案公報に掲載された他人の先願に記載された発明や考案から引用する発明や考案(引用例)の探索

 特許を受けようとする発明を特定できたら、引用例を探索しやすくするために必要に応じて、特許を受けようとする発明の構成を適当ないくつかの構成要件に分説する(各構成要件ごとに番号や符号を付して箇条書きのように列挙する

 そして、次のいずれかの発明や考案を、特許を受けようとする発明の特許出願後に特許公報や実用新案公報に掲載された先願に記載された発明や考案
(新規事項を追加する補正や原文新規事項を追加する翻訳によって記載されたもの、発明者や考案者が特許を受けようとする発明の発明者と同一のものを除くから探索する(いわゆる先行技術調査。なお、それらは、特許を受けようとする発明の特許出願時における当業者の技術常識を参酌すれば実施できる程度に記載されていなけばならない»判例1判例2
 @特許を受けようとする発明の構成要件のすべてを含んだ発明や考案
 A特許を受けようとする発明の構成要件の一部を含まない(それ以外の構成要件はすべて含む)が、その相違点は特許出願時における当業者の技術常識であって新たな効果を生じるものでない発明や考案

 (C)自己の特許出願後に特許公報や実用新案公報に掲載された他人の先願に記載された発明や考案と同一であるか否かの判断
 
同一であるか否かの判断であるので、新規性の有無の判断と同様であり、実質的な同一(上記Aの発明や考案が発見された場合)でもよい»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例