■■ 解説(1項) ■■(»全体表示)
(1)趣旨
(1.1)「自然法則を利用した」
客観的に課題を解決するためである。
(1.2)「高度のもの」
単に「考案」の定義と区別するためである。
【補足1】物品の形状、構造、組合せに係る「考案」は、実用新案法による保護の対象であり(»実用新案法1条)、「自然法則を利用した技術的思想の創作」と定義されている(»実用新案法2条1項)。
【補足2】「高度のもの」を付加して区別したのは、発明の特許要件である進歩性(»第29条2項)と物品の形状、構造、組合せに係る考案の実用新案登録要件である進歩性(»実用新案法3条2項)の違い(前者は「容易に」発明をすることができないこと、後者は「きわめて容易に」考案をすることができないこと)を反映させたものであるが、高度のものであるか否かの判断は進歩性の有無の判断に含まれるので、それに先立って発明であるか否かの判断において判断されることはない。なお、特許要件である進歩性の有無の判断と実用新案登録要件である進歩性の有無の判断は、実際には(特許権と同様の独占権である実用新案権を安易に与えないために)同様の基準によって行われている。
(2)解釈
(2.1)「自然法則を利用した」
法則性を見出された(すなわち、反復可能性を有する)自然の作用によって課題が解決されることである。
【補足1】自然の作用とは、人間の精神以外の事物の作用である。したがって、人間以外の事物の作用は当然に自然の作用であるが、人間の生理的な作用(例えば、病気、代謝、五感)も自然の作用であり(»判例)、人間の精神的な作用(例えば、思考、感情、言動)のみが自然の作用から除外される(»判例1、判例2、判例3、判例4、判例5、判例6、判例7)。
【補足2】自然の作用と人間の精神的な作用の双方が課題の解決に関与する場合(課題を解決する手段が物であるか方法であるかを問わない)は、課題が解決される本質的な原因が自然の作用でなければ、自然法則を利用したものとはならない(»判例1、判例2、判例3、判例4、判例5、判例6)。
【補足3】反復可能性(成功率)は、必ずしも高い必要はない(»判例1、判例2、判例3)。
【補足4】発明は学問ではないので、課題が解決される原理を学術的に説明できることは必要でない(»判例)。
(2.2)「技術的思想」
課題を解決する手段についてのアイデアである(»判例1、判例2)。
【補足1】手段には、物と方法がある。したがって、発明は物の発明と方法の発明に分類され、さらに、方法の発明は物を生産する方法の発明とそれ以外の方法(いわゆる単純方法)の発明に分類される(»本条3項各号)ので、特許法上、発明には(特許権によって独占できる行為を異にする)3つのカテゴリーが存在する。なお、物は、有体物(生物であるか無生物であるかを問わない)のほか、無体物にあってはプログラムに限られる(»本条3項1号)。
【補足2】次のアイデアは、未だ発明として完成するに至らない(いわゆる未完成発明)ので、特許を受けることはできない(»判例)。なお、未完成発明は、明細書の記載要件である実施可能要件(»第36条4項1号)や特許請求の範囲の記載要件であるサポート要件(»第36条6項1号)を満たすことができないので、通常は発明であるか否かの問題ではなく実施可能要件やサポート要件を満たすか否かの問題として扱われる。 @具体性や客観性を欠いたり不備があるため実施できないアイデア(»判例1、判例2、判例3、判例4) A課題を解決できることが明らかでないアイデア(»判例1、判例2、判例3、判例4)
(2.3)「創作」
人間の精神的な作用によって作り出すことや作り出したものである(»判例)。
【補足1】「創作」には、行為とその成果の二通りの意義が含まれるので、「発明」にも、行為とその成果の二通りの意義があることになる(例えば、発明をする、発明について特許を受ける)。
【補足2】人間以外の事物の作用や人間の生理的な作用のみによって単体で存在する物は、創作ではなく単なる発見である(例えば、砂糖は創作であるが、塩は単なる発見である)。