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(1)解釈

(1.産業上利用することができる発明」

 何らかの産業において実施できる発明である»判例1判例2

 補足産業とは、物やサービスを提供する業であって医療業(医療行為を提供する業、すなわち、人間を手術、治療、診断する業)以外の業である»判例1判例2判例3したがって、医療業においてのみ実施できる発明(医療行為の発明、すなわち、人間を手術、治療、診断する方法の発明)以外は、産業上の利用可能性を有する発明となる

(1.発明をした者」

 発明を完成させた自然人である。

 補足発明が完成する過程に複数の者が関与した場合は、それらの者のうち発明の特徴的部分(進歩性の根拠となるような部分)の完成に創作的(着想や具体化)に寄与(貢献)した者のみが発明者となり、そのような者が複数であれば、各人が共同発明者となる»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例判例判例判例判例判例判例なお、次のことのみを行った者は、創作的に寄与した者ではないので、共同発明者とはならない»判例1判例2
 @課題の提示
»判例1判例2判例3判例4判例判例6
 A管理
»判例1判例2判例3判例4判例5判例6
 B補助
»判例1判例2判例3判例4判例5判例6
 C資金や便宜の提供
»判例

(1.特許を受けることができる」

 特許を受ける権利を有することである

 補足1特許を受ける権利は、移転できる»3条1項)ので、取引の対象となるものである。したがって、発明者は、特許を受ける権利(の持分の全部)を他人に譲渡した場合は、人格権である発明者名誉権(発明者掲載権)のみを有することになり»判例1判例2判例3判例4判例5特許を受ける権利の承継人が特許や実用新案登録を受けると、自らが完成させた発明を自由に実施できなくなる»判例

 補足2特許を受ける権利は、次の場合には、複数の者が共有する(各人が持分を有する)ことになる。
 @複数の者が共同発明者である場合
 A特許を受ける権利の一部を譲渡した場合
 B特許を受ける権利が複数の者に相続された場合
 なお、
各共有者の持分の割合は、上記@の場合は、貢献度に応じたものとなり上記Aの場合は、契約で定めることになるが、それらが不明であれば、均等と推定されることになる»民法250条

(2)その他

(2.)新規性の有無の判断方法

 新規性の有無の判断は、以下のステップによって行われる。
 (A)特許を受けようとする発明の特定
 特許請求の範囲における請求項には、特許を受けようとする発明を特定するために必要な事項のすべてを記載しなければならない
»6条5項)ので、特許を受けようとする発明は、請求項に記載された事項のみによって構成されるものとみなされる。したがって、特許を受けようとする発明の特定は、請求項に記載された用語の意義を解釈して請求項に記載された事項を特定することによって行わなければならない。
 請求項に記載された用語の意義を解釈するためには、まず、同一の請求項における他の記載を参酌し
»判例1判例2次に、明細書や図面の記載を参酌し»判例1判例2判例3さらに必要であれば、特許出願時における当業者の技術常識を参酌する»6条4項1号ただし、特許出願時における当業者の技術常識を明細書や図面の記載よりも優先させてはならず»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例判例また、明細書や図面の記載であっても、非限定的(非定義的、例示的)な記載であれば、これによって直ちに意義を限定して解釈してはならず»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7他に意義を解釈できる記載や特許出願時における当業者の技術常識もなければ、その記載によって意義を限定して解釈することができる。請求項に数値が記載されている場合も、同様にその数値の測定方法を解釈しなければならない»判例
 なお、請求項に記載された用語の意義や数値の測定方法を解釈できないために特許を受けようとする発明を特定できない場合は、特許請求の範囲の記載要件である明確性要件
»6条6項2号)を満たさないので、新規性の有無に関わらず特許を受けることはできない。
 B)本条1項各号に掲げる発明から引用する発明(引用例)の探索
 特許を受けようとする発明を特定できたら、引用例を探索しやすくするために必要に応じて、特許を受けようとする発明の構成を適当ないくつかの構成要件に分説する(各構成要件ごとに番号や符号を付して箇条書きのように列挙する

 そして、次のいずれかの発明を本条1項各号(主として3号)に掲げる発明から探索する(いわゆる先行技術調査

 @特許を受けようとする発明の構成要件のすべてを含んだ発明
 A特許を受けようとする発明の構成要件の一部を含まない(それ以外の構成要件はすべて含む)が、その相違点は特許出願時における当業者の技術常識であって新たな効果を生じるものでない発明

 (C)新規性の有無の判断
 上記@の発明が発見された場合は、特許を受けようとする発明と同一の発明が特許出願前に公開されているので、その発明を引用例として特許を受けようとする発明の新規性は否定される
»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例また、上記Aの発明が発見された場合も、特許を受けようとする発明と実質的に同一の発明が特許出願前に公開されているので、その発明を引用例として特許を受けようとする発明の新規性は否定される»判例1判例2判例3判例4判例5判例6

 新規性を否定されず、他の拒絶理由も発見されなければ、特許を受けることができることになる。ただし、特許を受けた後に新規性を有しないことが判明した場合は、特許異議の申立てをされて»113条2号)特許が取り消されたり、特許無効審判を請求されて»123条1項2号)特許が無効となったり、特許権の侵害に係る訴訟を提起しても被告から特許の無効を主張されて敗訴することになる»104条の3第1項