特許発明の技術的範囲への属否(特許発明と同一の発明であるか否か)の判断は、以下の3つのステップによって行われる。
(A)特許発明の技術的範囲の特定
特許発明の技術的範囲の特定は、本条1項と2項に従って行う。なお、本条1項と2項に従っても特許発明の技術的範囲を特定できない場合は、特許発明の技術的範囲への属否を判断できないので、特許権の侵害を問うことはできず(»判例)、また、特許請求の範囲の記載要件である明確性要件(»第36条6項2号)を満たさないので、特許は取消理由(»第113条4号)や無効理由(»第123条1項4号)を有することになる。
(B)対象物件や対象方法の特定
対象物件(特許権侵害訴訟における被告物件やイ号物件)や対象方法(特許権侵害訴訟における被告方法やイ号方法)の特定は、対象でない物件や方法との区別と特許発明との対比を可能にする程度の具体性を有する構成(»判例1、判例2)を図面と説明書に記載することによって行う(特許権侵害訴訟においては、これらを訴状に添付して引用する)。対象物件や対象方法の全体ではなく一部分のみについて特許発明の技術的範囲への属否を判断する場合は、その部分のみを特定すれば足りる。なお、特許権侵害訴訟においては、原告が主張する被告物件や被告方法の特定を被告が否認する場合は、被告は自ら具体的態様を明らかにしなければならない(»第104条の2)。
(C)特許発明の技術的範囲への属否の判断
特許発明と対象物件や対象方法を対比しやすくするために必要に応じて、特許発明を適当ないくつかの構成要件に分説し(各構成要件に番号を付して箇条書きのように列挙するとよい)、各構成要件ごとに、それらが対象物件や対象方法の構成中に存在するか否かを調べていく。
そして、特許発明の構成要件のすべてが対象物件や対象方法の構成中に存在する(対象物件や対象方法は特許発明の構成要件のすべてを充足する)場合は、対象物件や対象方法は、特許発明と同一の発明を実施するものであるので、特許発明の技術的範囲に属する(»判例1、判例2、判例3、判例4)。ただし、特許発明の構成要件のすべてを充足する場合であっても、特許発明と同一の効果を生じなければ、特許発明の技術的範囲には属さない(»判例1、判例2、判例3)。
また、特許発明の構成要件の一部(Ai
)が対象物件や対象方法の構成中に存在しない(対象物件や対象方法はAi
を充足しない)場合であっても、次の5つのこと(いわゆる均等の第1〜5要件)を満たせば、対象物件や対象方法は、特許発明と均等な発明を実施するものとして、特許発明の技術的範囲に属する(»判例1、判例2、判例3)(いわゆる均等論)。
@Ai
は、特許発明の本質的部分(進歩性の根拠となるような特徴的部分)ではないこと(»判例1、判例2、判例3、判例4、判例5、判例6、判例7、判例8、判例9、判例10、判例11、判例12、判例13、判例14、判例15、判例16、判例17、判例18、判例19、判例20、判例21、判例22、判例23、判例24、判例25、判例26、判例27、判例28、判例29、判例30、判例31、判例32)
A対象物件や対象方法は、Ai
をこれと同一の機能を果たすもの(Bj
)に置換して特許発明と同一の効果を奏すること(»判例1、判例2、判例3、判例4、判例5、判例6、判例7、判例8、判例9、判例10、判例11、判例12、判例13、判例14、判例15、判例16、判例17、判例18、判例19)
B対象物件の生産時や対象方法の使用時において、当業者がAi
をBj
に置換することを容易(この容易性は、実施可能要件との兼ね合いからすると、進歩性における容易性ではなく実施可能要件における容易性に相当し、したがって、対象物件の生産時や対象方法の使用時における当業者の技術常識を参酌すれば容易に生産や使用できたことが必要となる)に想到できたこと(»判例1、判例2、判例3、判例4、判例5、判例6、判例7、判例8、判例9、判例10)
C対象物件や対象方法が特許発明の技術的範囲に属するとしても、それによって特許が無効理由を有することにならないこと(»判例1、判例2)
D補正や訂正、これらと同様の効果を有する主張(包袋禁反言の原則)、特許出願の分割によって特許請求の範囲の一部が意識的に除外された経緯がある場合(»判例1、判例2、判例3、判例4、判例5、判例6、判例7、判例8、判例9、判例10、判例11、判例12、判例13、判例14、判例15、判例16、判例17、判例18、判例19)や、そもそも最初(特許出願時)から意識的に除外されていた場合(»判例1、判例2、判例3、判例4、判例5、判例6、判例7)は、対象物件や対象方法は、その除外された範囲に属するものではないこと
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