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(1)趣旨

 特許請求の範囲の請求項には、特許を受けようとする発明(特許を受けると特許発明になる発明)を特定するために必要な事項のすべてが記載されている»6条5項)からである

解釈

 ある請求項における特許発明はその請求項に記載された事項のみによって構成されるものとみなして技術的範囲を定めなければならないことである。

 補足1請求項に記載されていない事項は、たとえ明細書や図面に必須の事項として記載されていても、その請求項における特許発明の構成要件であると主張することはできない»判例1判例2判例3判例4判例5また、請求項に記載された事項は、たとえ明細書や図面に必須の事項として記載されていなくても、その請求項における特許発明の構成要件ではないと主張することもできない»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7ただし、特許発明が物の発明であって請求項にその物(の全体や一部分)の生産方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(PBPクレーム)は、請求項に記載された生産方法自体は、その請求項における特許発明の構成要件とはならず、生産された物の構造や特性のみが構成要件となる»判例1判例2なお、プロダクト・バイ・プロセス・クレームについては、特許請求の範囲の記載要件である明確性要件»6条6項2号)の適否の問題が別途に生じる。

 補足2請求項に用途が記載されている場合(いわゆる用途発明)は、請求項に記載された用途も特許発明の構成要件となる»判例1判例2判例3判例4

(3)その他

(3.特許発明の技術的範囲への属否の判断方法

 特許発明の技術的範囲への属否(特許発明と同一の発明であるか否か)の判断は、以下の3つのステップによって行われる。
 (A)特許発明の技術的範囲の特定
 特許発明の技術的範囲の特定は、本条1項と2項に従って行う。なお、本条1項と2項に従っても特許発明の技術的範囲を特定できない場合は、特許発明の技術的範囲への属否を判断できないので、特許権の侵害を問うことはできず
»判例また、特許請求の範囲の記載要件である明確性要件»6条6項2号)を満たさないので、特許は取消理由»113条や無効理由»123条1項4号を有することになる。
 (B)対象物件や対象方法の特定
 対象物件(特許権侵害訴訟における被告物件やイ号物件)や対象方法(特許権侵害訴訟における被告方法やイ号方法)の特定は、対象でない物件や方法との区別と特許発明との対比を可能にする程度の具体性を有する構成
»判例1判例2を図面と説明書に記載することによって行う(特許権侵害訴訟においては、これらを訴状に添付して引用する対象物件や対象方法の全体ではなく一部分のみについて特許発明の技術的範囲への属否を判断する場合は、その部分のみを特定すれば足りる。なお、特許権侵害訴訟においては、原告が主張する被告物件や被告方法の特定を被告が否認する場合は、被告は自ら具体的態様を明らかにしなければならない»104条の2
 (C)特許発明の技術的範囲への属否の判断
 特許発明と対象物件や対象方法を対比しやすくするために必要に応じて、特許発明を適当ないくつかの構成要件に分説し(各構成要件に番号を付して箇条書きのように列挙するとよい、各構成要件ごとに、それらが対象物件や対象方法の構成中に存在するか否かを調べていく。
 そして、特許発明の構成要件のすべてが対象物件や対象方法の構成中に存在する(対象物件や対象方法は特許発明の構成要件のすべてを充足する)場合は、対象物件や対象方法は、特許発明と同一の発明を実施するものであるので、特許発明の技術的範囲に属する»判例1判例2判例3判例4ただし、特許発明の構成要件のすべてを充足する場合であっても、特許発明と同一の効果を生じなければ、特許発明の技術的範囲には属さない»判例1判例2判例3
 また、特許発明の構成要件の一部(  )が対象物件や対象方法の構成中に存在しない(対象物件や対象方法は  を充足しない)場合であっても、次の5つのこと(いわゆる均等の第1〜5要件)を満たせば、対象物件や対象方法は、特許発明と均等な発明を実施するものとして、特許発明の技術的範囲に属する
»判例1判例2判例3(いわゆる均等論
 @  、特許発明の本質的部分(進歩性の根拠となるような特徴的部分)ではないこと
»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例
 A対象物件や対象方法は、  これと同一の機能を果たすもの(  )に置換して特許発明と同一の効果を奏すること
»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例
 B対象物件の生産時や対象方法の使用時において
当業者が    置換することを容易(この容易性は、実施可能要件との兼ね合いからすると、進歩性における容易性ではなく実施可能要件における容易性に相当し、したがって、対象物件の生産時や対象方法の使用時における当業者の技術常識を参酌すれば容易に生産や使用できたことが必要となる)に想到できたこと»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例判例8判例9判例
 C対象物件や対象方法が特許発明の技術的範囲に属するとしても、それによって特許が無効理由を有することにならないこと
»判例1判例2
 D補正や訂正、これらと同様の効果を有する主張(包袋禁反言の原則
特許出願の分割によって特許請求の範囲の一部が意識的に除外された経緯がある場合»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例や、そもそも最初(特許出願時)から意識的に除外されていた場合»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7)は、対象物件や対象方法は、その除外された範囲に属するものではないこと