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(1)解釈

(1.発明の属する技術の分野」

 その発明が解決しようとする課題(当業者に認識されているか否かは問わない)が存在する技術分野(複数でもよい)である»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例

(1.通常の知識を有する者

 発明の属する技術分野における技術常識と通常の創作能力を有する仮想の人物(いわゆる当業者)である»判例

 補足1技術常識とは、次のものについての知識である»判例
 @周知技術や慣用技術
»判例1判例2判例3判例4
 A経験則から明らかな事項
 B設計的事項(設計の際に適宜に選択される事項)

 補足2通常の創作能力とは、進歩性を有しない発明を完成させる能力である。なお、通常の創作能力を発揮した活動が通常の創作活動である

 補足3仮想の人物であるので、実在するか否かは問題とはならず»判例1判例2、単数(単独)か複数(チーム)かも問題とはならない»判例

(2)その他

(2.)進歩性の有無の判断方法

 進歩性の有無の判断は、以下のステップによって行われる。
 (A)特許を受けようとする発明の特定
 新規性の有無の判断の場合と同様である。
 (B)本条1項各号に掲げる発明から引用する発明(引用例)の探索
 特許を受けようとする発明を特定できたら、引用例を探索しやすくするために必要に応じて、特許を受けようとする発明の構成を適当ないくつかの構成要件に分説する(各構成要件ごとに番号や符号を付して箇条書きのように列挙する

 そして、各構成要件ごとに、同一(新規性の有無の判断と同様に、実質的な同一、すなわち、相違点が特許出願時における当業者の技術常識であって新たな効果を生じるものでない場合でもよい)の構成を含んだ発明を本条1項各号(主として3号)に掲げる発明から探索する(いわゆる先行技術調査

 (C)進歩性の有無の判断
 同一の構成を含んだ発明がすべての構成要件について発見された場合(例えば、特許を受けようとする発明がA=A1+A2+A3であり、本条1項各号に掲げる発明からB=B1+B2+A1、C=C1+A2、D=A3が発見された場合)は、本条1項各号に掲げる発明に基いて特許を受けようとする発明を完成させることができる、すなわち、それらの発明の構成の全部や一部を組み合わせることによって特許を受けようとする発明を完成させることができるので、そのことが特許出願時における当業者にとって容易に想到できることであれば、それらの発明を引用例として特許を受けようとする発明の進歩性は否定される
»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例
 容易に想到できるか否かは、発明者個人の主観的な事情(例えば、苦労話の類)については何ら考慮することなく
»判例1判例2判例3判例4判例5、客観的な動機付けがあるか否かによって判断される。ただし、単なる寄せ集め(例えば、消しゴム付き鉛筆のように機能的に互いに独立しているものを単に組み合わせたにすぎないもの)の場合は、動機付けの有無を問わずに容易に想到できると判断され»判例1判例2また、み合わせることによって予測できない顕著な効果(数値範囲の限定にあっては、いわゆる臨界的意義)を生じる場合は、その効果が明細書に記載されていれば、動機付けの有無を問わずに容易に想到できないと判断される»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例
 
動機付けとなるものとしては、後知恵(事後分析)による判断
»判例)を防止する観点から、次のものがある。なお、技術分野の関連性や汎用性も動機付けの認定に必要である»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例が、それだけ動機付けとなるものではない»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7
 @教示や示唆(当業者が認識した課題を解決する教示や示唆があれば、当業者はそれらの教示や示唆に従って課題を解決するべく発明を完成させようとする
»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例
 A課題の共通性(同様の課題を解決する複数の発明があれば、当業者は(例えば、それらの発明が他人の特許発明であれば特許権の侵害を回避するべく)それらの発明間において構成の一部の置換や転用を試みて新たな発明を完成させようとする
»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例
 B機能の共通性(発明の構成の一部について同様の機能を有する他の構成があれば、当業者は(例えば、その発明が他人の特許発明であれば特許権の侵害を回避するべく)その構成に置換を試みて新たな発明を完成させようとする
»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例

 動機付けがない場合、すなわち、動機付けとなるものを見出せない場合»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例や、むしろ動機付けを妨げるもの(阻害要因)がある場合»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例判例判例判例は、本条1項各号に掲げる発明に基いて(それらの発明の構成の全部や一部を組み合わせることによって)特許を受けようとする発明を完成させることを容易に想到できないので、特許を受けようとする発明の進歩性を否定することはできない。また、同一の構成を含んだ発明が本条1項各号に掲げる発明から発見されない構成要件(新規な構成要件)がある場合(例えば、特許を受けようとする発明がA=A1+A2+A3であり、本条1項各号に掲げる発明からB=B1+B2+A1、C=C1+A2は発見されたが、A3を含む発明は発見されない場合)は、本条1項各号に掲げる発明に基いて特許を受けようとする発明を完成させること自体ができないので、特許を受けようとする発明の進歩性を否定することができないことは当然である»判例1判例2判例3判例4判例5判例6判例7判例8判例9判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例判例
 進歩性を否定されず、他の拒絶理由も発見されなければ、特許を受けることができることになる。ただし、特許を受けた後に進歩性を有しないことが判明した場合は、
特許異議の申立てをされて»113条2号)特許が取り消されたり、特許無効審判を請求されて»123条1項2号)特許が無効となったり、特許権の侵害に係る訴訟を提起しても被告から特許の無効を主張されて敗訴することになる»104条の3第1項